【特集】心筋梗塞のリスクを高める血管攣縮(れんしゅく)とは

~日本人は欧米人の3倍も血管攣縮が発症する~

そもそも見たことも聞いたこともない人がほとんどであろう医療用語「攣縮」は「れんしゅく」と読みます。攣縮とは血流障害のひとつで、なんらかの理由で動脈が痙攣(けいれん)して狭窄や閉塞の引き金となる血管の異常収縮(けいれん)のこと。血管以外に腸官などの不随意筋(自己の意識で動かすことのできない筋肉)などにも攣縮は起こります。

また安静時(就寝中など)の狭心症の多くは、この血管攣縮が原因であることがわかっており、突然死のリスクを下げるためにも注意が必要な症状です。くも膜下出血後にも発症しやすく、予後を悪化させて脳梗塞に至らしめる要因ともなってしまいます。

心臓の冠動脈に攣縮が生じると一時的に血流が途絶え、冠攣縮性狭心症を引き起こします。動脈硬化や血栓同様、心筋梗塞や狭心症を引き起こす原因となる血管攣縮、なかでも冠攣縮のメカニズムについてくわしく説明していきます。

冠攣縮性狭心症の原因となる血管攣縮

攣縮(れんしゅく)は耳慣れない言葉ですが、血管病の原因を語る上でとても重要な医療用語です。全身のすみずみまで血液と栄養をいきわたらせるため休むことなく働いている心臓に、血液を供給する冠動脈に攣縮が起こると、一時的に血液が供給されない状態となり狭心症を引き起こします。数分から15分程度発作が続きますが、血管の異常収縮がおさまり冠動脈の血流が回復すれば、心筋に酸素が供給されるようになり胸の痛みや動悸などの発作は治まります。

狭心症の典型的な症状としては、ぎゅっと締め付けられるような胸の痛み、胸の圧迫感、動悸、息切れ、息苦しさなど。最初から激しい痛みを感じるのではなく、徐々に痛みが強くなっていく症状が特徴です。冠攣縮性の発作は瞬間的に起こるので、健康診断時に心電図検査などを行なってもほとんど発見できません。狭心症のうち60%以上はこの冠攣縮が原因ともいわれています。

一般の狭心症が走る、階段を上るなど、重いものを持ち上げるといった運動量が多くなったときに起こる労作性狭心症というのに対し、就寝中や就寝後の夜間、早朝、起床時などに発作を起こすこともある冠攣縮性の狭心症のことを安静時狭心症と呼ぶこともあります。

攣縮で狭心症が起こると、心筋梗塞になる?

血管の異常収縮である攣縮が狭心症を引き起こす・・・と説明してきましたが、まずここで心筋梗塞と狭心症の違いについて確認しておきましょう。

まずその初期症状は、狭心症も心筋梗塞も胸の痛みや息苦しさを感じるなど、ほとんど同じ症状です。ただし狭心症の発作は数分、長くても15分程度であるのに対し、心筋梗塞は30分から数時間その痛みが続きます

血管がけいれんするなど異常な収縮を起こす血管攣縮の場合、血管が狭くなって一時的に血流量が減ることになります。虚血状態になると酸素が運搬されず酸欠状態になるため発作が起きますが、しばらくするとけいれんがおさまり血流量も戻るため、通常は短い時間で発作がおさまります。ただし、血管攣縮が心室細動を誘発して心停止につながることもありますし、冠攣縮性狭心症は心筋梗塞の前兆として起こることがあります。発作がおさまったとしても、一度病院で検査を受けることをおすすめします。

いっぽう、心筋梗塞は冠動脈が血栓で完全にふさがることにより血流が完全にストップ。血液から酸素が供給されなくなることから心筋の一部の細胞が壊死してしまう病気です。狭心症と異なり、一度心筋梗塞を起こした心筋は元に戻ることはありません。

血管攣縮が原因の狭心症を繰り返すことにより冠動脈が閉塞され、心筋の細胞が壊死して心筋梗塞を起こす…。虚血性心疾患というグループに属する狭心症と心筋梗塞ですが、どちらも突然死につながりかねない重篤な病気であることに変わりはありません。

冠攣縮や脳血管攣縮については現在もなお原因究明と研究が進んでおり、いまのところ根本的な治療法は見つかっていません。ただコレステロール値が高いと、発生確率が上がるという傾向があることがわかっています。

血管攣縮のメカニズムを解明した小林教授

2003年に日本経済新聞や読売新聞、朝日新聞などの全国紙に大きく取り上げられたのは、「魚油が血管異常抑制」という研究成果。山口大学医学部分子細胞学の医学博士である小林誠教授率いるチームが発表したもので、血管攣縮のメカニズムが解明されたとして、当時「青魚から心臓病の特効薬!?」などとその発見が大きな話題となりました。

小林教授が特定した物質は、血管壁から分泌される脂質の一種で、スフィンゴ脂質から作られるSPC(スフィンゴシルホスホリルコリン)。体液中のSPC濃度が高まると血管細胞内のある酵素が活性化するというメカニズムを突き止めました。この攣縮を引き起こす酵素が活性化されないようにSPCの作用を阻害すれば、血管の異常収縮が抑えられるはずだという仮説を元に研究を進めたのだそうです。

さらに小林教授率いる研究チームは「生の青魚に含まれるEPAに血管攣縮を抑制する働きがある」ことを突き止めると同時に、特定のEPAにしかこの働きが出現しないこともわかっていきました。この研究の成果がのちに「小林式EPA」として世に送り出されることになるのですが、その効果やエビデンスなど詳細については「小林式EPA」で検索してみてください。

小林教授が研究したEPAについてGoogleで調べてみる>>

青魚に含まれるEPAで攣縮が抑制できる

小林教授の研究チームは血管攣縮の抑制に関する研究を進めるうちに、イワシやさばといった青魚に豊富に含まれている不飽和脂肪酸EPA(エイコサペンタエン酸)に、血管攣縮を引き起こす酵素とその酵素を活性化するSPCの作用を阻害する働きがあることを突き止めました。そして豚などによる動物実験を経て、くも膜下出血後の患者を対象にした臨床試験も実施。くも膜下出血後にはしばしば血管の異常収縮が起こって予後を悪化させることから、EPAを投与することによりその抑制効果を検証したのだそうです。

その結果、対象患者の約30%に発生していた脳血管の異常収縮がEPAを投与すると7%にまで激減。血管攣縮の学会やシンポジウムでその成果について発表されました。もともとオメガ3脂肪酸というグループに属する脂肪酸であるEPAやDHAは、人間の細胞が本来の働きを発揮するために有用な成分であることが知られており、特に血流の改善に関しては多くのエビデンスがある物質です。

そのオメガ3脂肪酸のなかでもなぜ、EPAだけに血管攣縮を抑制する効果があるのか、その働き成分の特徴については次のページでくわしく説明していきます。

血管攣縮を抑制するEPAの働きについてもっとくわしく見る>>

日本人が心筋梗塞を起こす原因の特徴とは

欧米人と比較すると、狭心症や心筋梗塞の発症率も死亡率も低いことがわかっていますが、そのほかにも欧米人と日本人には以下のような事実が判明しています。

  • 冠攣縮性(血管攣縮)狭心症の発症率が欧米人に比べ約3倍も多い
  • 高血圧と男性の喫煙者が占める割合が高い
  • HDLコレステロール値が高い
  • 総コレステロール値、LDLコレステロール値、中性脂肪値が低い
  • 糖尿病の有病率が低い
  • 狭心症や心筋梗塞による死亡率は3分の1から5分の1と低い

冠攣縮性狭心症によって心室細動が誘発され突然死につながると同時に、この冠攣縮(血管攣縮)が心筋梗塞の誘因することが報告されています。狭心症の約6割が冠攣縮性であるという報告もあり、日本人特有の環境要因があることが推察できます。脳梗塞や心筋梗塞などによる突然死に血管攣縮が大きくかかわっていることは間違いないようです。

食の欧米化により動脈硬化のパターンも欧米型のものが増えていると考えられていましたが、欧米人に比べて日本人にはなぜ冠攣縮性狭心症の発症率が高いのでしょうか。次のページでくわしく見ていきましょう。

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