心筋梗塞予後の注意点

予後とは手術や病気がどのように回復していくか、病気がそのまま進行すると将来どのようになるか、機能は回復するのかといった今後の見通しこと。治療の進歩で心筋梗塞の予後はかなり改善されてはいますが、気をつけなければいけないポイントもあります。

また心筋梗塞を再発させないための防止策についてもあわせて説明していきます。

心筋梗塞後の処置が早ければ予後は良好なものに

急性心筋梗塞の予後は、発作が起きてからいかに迅速に処置が行なわれるかという点に左右されます。胸痛が起きてから1時間以内に86%の人が心停止、そのうち25%が瞬間死というデータが社団法人日本循環器学会に出ていますが、救急車での搬送やAEDを使った心肺蘇生が早ければ早いほど死亡率が下がり、予後も良くなります。心臓に血液が供給されない時間が長くなってしまうと、予後は不良(見通しが悪い)となる病気です。

医療専門書の『MSDマニュアル家庭版』によると、心筋梗塞の発作が起きてから2~3日生存することができれば、ほとんどの場合回復が見込め予後も良いのですが、そのうち約10%は1年以内に死亡するそうです。この10%には狭心症や心室由来の不整脈(心室細動)が続いている人が多くは3~4ヵ月以内に亡くなるため、症状が重い患者の生命予後は良くありません。

ただ急性期を乗り切った患者の1年後の生存率はかなり高く、胸痛が起きてから2時間以内に心臓に十分な血流が再開すれば後遺症となる障害は残りにくいということで、機能予後も良好です。手術を含め医療の進歩によりけっしてコワイ病気ではない、という意見も循環器内科のサイトなどによく書かれています。

心筋梗塞の発作後に心臓が拡大している場合は予後が悪いことも少なくないようですし、高齢者は心筋梗塞後の合併症発症率も高く予後不良であることが多いそうです。同じ心筋梗塞でも、個々が抱えている危険因子によって予後にはかなり差があるといえます。

「ST上昇型急性心筋梗塞の診療の関するガイドライン2013」でも、心筋梗塞発症からいかに早く心筋に再び血液を流すことができるかが、その後に大きく影響するということがはっきりと示されています。

STEMI において最も重要なことは,いかに発症から再灌流までの総虚血時間を短くするかである.再灌流治療としては通常,血栓溶解療法と PCI があげられるが,いずれの治療法においてもできるだけ早期に再灌流を得ることが予後を改善する 64,72).治療目標は,血栓溶解療法においては first medical contact(あるいは door)-to-needle time を 30 分以内に,PCI では first medical contact(あるいはdoor)-to-device timeを90分以内にすることである

出典:(PDF)「ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン」日本循環器学会[PDF]

また、心筋梗塞発症後に血栓溶解療法を用いる場合、発症から2時間以内に治療ができれば死亡率の改善が見られることが示されています。

血栓溶解療法では、発症から2時間以内に施行されたときに死亡率を改善するが、その後は時間に依存して改善度が減少するといわれている。〜中略〜我が国での努力目標としては、(1)発症から再灌流達成までの時間を120分以内 (2)最初の医療従事者(救急隊)の接触から血栓溶解療法開始までを30分以内 (3)最初の医療従事者(救急隊)の接触からPCIまでを90分以内とする。

出典:(PDF)「JRC(日本版) ガイドライン2010(確定版)」 [PDF]

いずれにせよ心筋梗塞は発症後、いかに速やかに治療が始められるかが、予後に大きな影響を与えます。「胸痛がある」など何らかの異変を感じたら、我慢せず早目に医師に相談するようにしましょう。また、動脈硬化など心筋梗塞になりやすい持病をお持ちの方は、万が一の対策や、連絡先などをかかりつけ医と相談しておくのもいいでしょう。

一度でも心筋梗塞や狭心症、不整脈を引き起こした人はつねに再発のリスクがつきまといますので、日頃から心臓に負荷をかけない生活を心がけなければなりません。具体的にどのようなことに注意すべきかは下記ページにまとめました。

心筋梗塞や狭心症を予防するにはどうすればいい?>>

心筋梗塞に再発防止策はあるのか?

日本動脈硬化学会が発行している「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」(最新のものは2017年版)には、心筋梗塞や狭心症など動脈硬化が原因の病気を起こさないための一次予防と、心筋梗塞などを再発させないための二次予防に分けてそれぞれガイドラインが定められています。

一次予防では危険因子の数でリスク分けし、生活習慣の改善を実施したあと数値が改善されなければ薬物治療の適応を考慮します。二次予防、すなわち再発予防に関しては、心筋梗塞再発のリスクとなるような生活習慣の改善と同時に薬物療法を実施していきます。

心筋梗塞や狭心症などの予防策として注視される危険因子は、LDLコレステロールの数値です。動脈硬化の初期病変となるプラークにはLDL由来のコレステロールが沈着します。したがってLDLコレステロールを低下させると動脈硬化性疾患が減少するのです。

日本生活習慣病予防協会のサイトで公開されているデータによると、LDLコレステロールが2~3割低下すると、心筋梗塞や狭心症の危険が約3割も低下するのだそうです。逆にLDLコレステロールが140以上の場合、84未満の人に比べて心筋梗塞や狭心症の危険が2.9倍になってしまいます。

ほかのページでも取り上げていますが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」上で主要危険因子とされるものは以下のとおり。

  • LDLコレステロールが高い
  • 加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)
  • 高血圧
  • 糖尿病(耐糖異常を含む)
  • 喫煙
  • 冠動脈疾患の家族歴
  • 脳梗塞
  • 閉塞性動脈硬化
  • 低HDLコレステロール血症

動脈硬化の予防はすなわち心筋梗塞の予防でもあり、再発を防ぐには食生活の見直しや適切な運動のほか、禁煙、酒量の見直し、質の高い睡眠といった、生活習慣の改善をしっかり行ない、医師の治療方針によっては薬物療法も並行して行なうことが必要です。

心筋梗塞の再発リスクが高い人とはどんな人?>>

予後良好のコツは食習慣の改善にあり

40代以降になれば糖尿病、高血圧、腎臓病、脂質異常症、肥満、睡眠時無呼吸症候群などの生活習慣病と無縁ではいられませんし、なにより加齢による血管の老化は避けられない事実。ただでさえ身体の機能が衰えてきているにもかかわらず、休肝日なく大量の飲酒、寝不足やストレスが慢性化、脂肪の多い肉料理中心で魚を食べる機会も少なく、運動もせず、禁煙はしない。そんな人は「死の五重奏」どころか、「死のオーケストラ」といっても過言ではありません。

生活習慣というと努力目標のように聞こえますが、ただの習慣ではなく「食事療法」「運動療法」という治療法であると認識することが大切です。食事制限や適切な運動が治療に不可欠であり、心筋梗塞の予後改善と再発予防のためには定期的な検診を受けて経過観察をする必要があります。

健康診断で再診の所見が出ても無視してきたようなかたは、動脈硬化のガイドラインなどWEB上に公開されている管理目標数値などを参考に、ご自分の食習慣や生活習慣を棚卸ししてみることをおすすめします。

心筋梗塞の予防にDHAやEPAがよい理由とは>>

10年間の再発リスクの指標、心筋梗塞発症率「危険度予測スコア」とは

大きな病気をすると5年生存率、10年生存率といった“いのちのタイムリミット”を宣告されるケースもあります。そんな深刻な病状になってしまう前に、みずからの再発リスクを知る方法があることをご存知でしょうか。

国立循環器研究センターが開発したのは、心筋梗塞などの冠動脈疾患を10年以内に発症する危険度を予測するスコア。日本人に合ったリスクスコアで冠動脈疾患を正確に予測できるものなのだそうです。

年齢、性別、喫煙、糖尿病、血圧、LDLコレステロール、HDLコレステロール、慢性腎臓病(CKD)など生活習慣病を含む8項目の危険因子を点数化、その合計点で冠動脈疾患発症の危険度を予測できるというもの。心筋梗塞発症リスク評価ツール(吹田スコア)として循環器内科のサイトなどに掲載されていますので、気になるかたは検索してチェックするとよいでしょう。

すでにこのページでも説明したように、心筋梗塞や狭心症の予後を悪化させず再発リスクを下げる生活を送ることが大切。その上で血管や血液の健康維持に貢献するEPAやDHAなどの栄養素を十分に摂るようにしましょう。

心筋梗塞や狭心症の再発予防に貢献するEPAについて詳しく調べたい場合は、Googleなどで調べてみるとよいと思います。

心筋梗塞発症リスク評価ツール「吹田スコア」について

心筋梗塞発症リスク評価ツール「吹田スコア」は、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」でも発症リスクを図る方法として採用されているツールです。吹田スコアは大規模コホート研究の統計結果をもとにリスク要因を点数化。合計点から発症確率やリスクの程度、10年以内の冠動脈疾患の発症確率を割り出すことができるリスクスコアです。

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:橋本信夫、略称:国循)予防医学・疫学情報部の西村邦宏室長らの研究チームは、心筋梗塞など冠動脈疾患の10年間の発症危険度を予測する新しいリスクスコアを開発しました。本研究の成果は、専門誌「Journal of Atherosclerosis and Thrombosis」オンライン版に平成26年3月25日付で掲載されました。 日本人の心筋梗塞発症リスクは欧米人に比べて極めて低いため、欧米で用いられてきた10年間の冠動脈疾患の発症を予測するスコアであるフラミンガムリスクスコア(FRS)は、日本人には不正確と考えられるもののこれまで妥当性が検討されていませんでした。一方慢性腎臓病(CKD)は近年冠動脈疾患のリスクとして注目されていますが、FRSでは検討されておらず、CKD患者にFRSを適用すると冠動脈疾患発症リスクが過少評価されることが知られています。

出典: 「冠動脈疾患を予測する新しいリスクスコアの開発」国立循環器病研究センタープレスリリース 2014年5月

具体的に、46歳の男性Bさんの場合で吹田スコアを計算してみたいと思います。

仮に、Bさんの条件を下記の通りに設定すると、

  • 年齢:46歳(38)
  • 性別:男性(0)
  • 喫煙歴:あり(5)
  • 血圧:125-82(0)
  • HDL-C:39(0)
  • LDL-Cが:110(5)
  • 耐糖能異常:なし(0)
  • 早発性冠動脈疾患の家族歴:あり(5)

危険因子のスコアは合計53。吹田スコアでは中リスクに分類され、10年以内の冠動脈疾患発症確率は5%という結果になりました。このように吹田スコアは、人間ドックなどの結果をもとに、自分でも簡単に算出することができます。

吹田スコアは1989年から開始された大阪府の都市住民のコホート研究(吹田研究)において,ベースライン時に30代から79歳で冠動脈疾患と脳卒中の既往がない5.521名(男性2.796名,女性2,725名)を約12年間追跡して作成された. 評価する絶対リスクは今後10年間の冠動脈疾患(心筋梗塞・新疾患による突然死・冠血行再建術)の発祥であり,オリジナルのスコアでは性、年齢、喫煙の有無、高血圧の有無、LDL-C、HDL-C、糖尿病の有無、慢性腎臓病の有無が危険因子としてリスク評価に用いられる 〜中略〜 ガイドライン2017の吹田スコアはオリジナルの論文のものと少し異なる.オリジナルの吹田スコアには糖尿病とCKDが得点化されているが、ガイドライン2017では前述のように自動的に「高リスク」とされるのでこれらは使用しない。

出典:(PDF)「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版の改定ポイント包括的リスク評価」日本冠疾患学会雑誌 ,24(1),2018 [PDF]

吹田スコアとこれまでのリスク評価ツールとの大きな違いは、日本人に則したスコアであるという点です。以前のリスク評価ツールは欧米のデータをもとに作成された予測スコアでしたが、吹田スコアでは、日本人の臨床データを基に割り出されています。興味のある方は是非自己診断してみてはいかがでしょうか?

心筋梗塞や狭心症の予防に役立つEPAについてGoogleで調べてみる>>

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